消えた年金問題の際に同じようにクローズアップされるようになったのは、企業による意図的な社会保険の取得漏れです。
年金の加入記録を照会した際に、空白期間が数ヶ月だけ発生しているケースがあり、記録の統合漏れによるものなのか、はたまた届出自体がされていないのか、既に何十年も経過してしまっている状況では、本人も判断できない場合が多々あります。

意図的に企業側が社会保険の届出を怠っていた場合、どんな責任が発生するのでしょうか?

企業が負う法的責任としては、大きく分けて二つ、あると考えられています。

①労働契約上における債務不履行
②加入していれば受給が可能であった年金額と、受給している年金額との差額に対する損害賠償

①ですが、社会保険の加入は法律で義務付けられているものであり、雇用契約締結時に労働者は当然に社会保険の加入を期待します。
したがって、法律で定められた届出を企業が怠ることは、労働者の法律上の利益を直接侵害するものであり、労働契約上の債務不履行を構成する、と判例上では判断されています。
(豊國工業事件 奈良地判 平成18年9月5日)

この結果として、企業は②の損害賠償責任を負うことになる訳ですが、労働者が企業側に対し、労働契約上の債務不履行の責任を問う場合において、労働者の社会保険等における資格確認の請求行為がされなかったときは、賠償額の過失相殺が行われます。
判例では、「労働者が資格取得の確認請求を行わなかったのは、自らが加入する権利を保全するために何からの行動を出なかったこと」であるとし、実損害のうち3割が過失相殺されました。
(京都市役所非常勤嘱託厚生年金保険事件 京都地判 平成11年9月30日)

また、未だ老齢厚生年金の受給権が発生していない方が、②の損害賠償請求の訴えを起こしても、現実には認められない傾向にあります。
これは「受給権が発生していない=老齢厚生年金の受給額が確定していない」ため、判決時点において損害額が不確定となってしまうことが要因です。
実際に受給権が発生していない方が訴えを起こした場合は、企業側の債務不履行を認めつつも、損害賠償に関しては労働者の主張が認められないことになります。
(大真実業事件 大阪地判 平成18年1月26日、リブラン事件 東京地判 昭和60年9月26日、麹町社会保険事務所事件 仙台高判 平成16年11月24日)

仮に雇用契約締結時において、社会保険の未加入について労働者との合意があったとしても、企業は①及び②の責任を負うことになりますので、注意が必要です。
(前掲 豊國工業事件)