競業避止義務とは、前職と競業する会社に就職することを禁止したり、あるいは労働者自身がそうした事業を営まない義務のことを言います。IT関連と言った高い機密性が求められる会社や、美容業等顧客との繋がりが必要となる事業所等で、重要な雇用条件の一つとなったりします。

 

在職中の競業避止義務は、信義則に基づいて当然に生じる義務です。しかし、退職後の競業避止義務については、通説・裁判例共に契約上の明確な根拠、すなわち当事者間の合意又は就業規則への規定を必要と解されています。

 

これは第一に、契約上の義務はその契約の終了と共に消滅するのが原則であること第二に競業避止義務は労働者の就業活動を直接制限する義務であり、憲法第二二条で保障されている「職業選択の自由」に対する制約が高い、と言った理由によるものです。

 

したがって、退職後の競業避止義務については、仮に契約上の特約があったとしても、職業選択の自由を考え合わせ、その妥当性が慎重に判断されることになります。

 

退職後の競業避止義務の有効性の判断においては、一般に次のような点が考慮されます。

 

①根拠とする就業規則上の規定等を要すること。=会社と労働者との予めの合意が存在すること。

②労働者の地位の高さ、職務内容。=前会社の下での地位、職務が営業秘密に直接かかわるなど、競業避止を課すに相当なものであること。

③前会社の正当な利益を目的とすること。=当該労働者のみが有する特殊固有な知識、技術や人的関係などの秘密の保護であり、正当な目的を有するものであること。

   ④競業制限の対象=同一職種への就労禁止が大原則。

⑤競業制限の期間、地域=期間、地域的制限が労働者の職業選択の自由を不当に制約するものでないこと。

⑥相当の代償が与えられていること。=労働者と会社の各々の法益の保護において、バランスが取れていると判断されるものであること。

 

近年の裁判においては、特に⑥を重要視する傾向にありますので、注意が必要です。

○フォセコ・ジャパン・リミテッド事件

奈良地判 昭和45年10月23日

○中部機械製作所事件

金沢地判 昭和43年3月27日

○東京リーガルマインド事件

東京地判 平成7年10月16日

 

会社側からすれば、顧客の引抜き防止や企業機密・顧客情報の保護と言った観点からも、退職後の一定の競業避止を義務付けるのは重要です。しかし、合法的に制限を行う為には以下の点に留意しなければなりません。

 

・就業規則等で、退職後の競業避止の特約を締結する対象者を限定する。

・退職後の競業避止の特約を締結する対象者には、通常の退職金に加え、その代償として相当の金銭を支払う。

・全ての労働者に対し、秘密保持意識を高める為に、秘密保持手当の支払いを検討する。

 

 特約だけでの競業避止の義務付けは困難です。